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ことばの忍術経典

中国語中級クラスに通っている。
中国語学習の楽しさをしつこく説いていたら、友人のアレッサンドラも私に押されて昨年の秋から初級クラスに通い始めた。

昨夜はアレッサンドラ、彼女と同じく初級コースに通う仲間たちと王老師を囲んでホームパーティをした。
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初級クラスの一人が、中国語の発音が難し過ぎるという話を始めた。
「そもそも子音が21もあって覚えられないよ。」
「あら、それならイタリア語は30以上あるから、イタリア語の方が難しいということになるわ。」
「いや、声調があるから単純計算でも4倍になるんだよ。もう聞き取れやしないよ。」

そこで私自身も何年経ってもイタリア語のBとVを完全に聞き取れないことを話した。
「でもおかしいな、君は完全にBとVを区別して話しているじゃないか。」
「それは私がその単語を知っているから、意識して発音できるだけ。知らない単語は区別して発音できないし、聞き取りもできないよ。」
「そうか、それなら君の知らないであろう単語で本当に区別できないか試してみようじゃないか。」

そう言って友人は、分厚い医学用語辞典を取り出して、その中から難解な単語を拾い出した。
「Bxxxx、 Vxxxx、さあどっちだい?」
と聞いてきた。
「残念ながら、唇の動きを見て区別出来てしまうよ。」

彼は腕組をして少し考えた後、くるっと私に背中を向けて
「Bxxxx、 Vxxxx、さあどっちだい?」
と聞いてきた。
「残念ながら、閉鎖音と摩擦音の長さで区別できてしまうよ。扉をバタンと閉めるより、床を引きずりながら閉めると時間がかかるでしょう。」

友人は今度はううむ、と唸って携帯アプリでメトロノームのアップテンポを設定し、私に背中を向けてラップ調で
「Bxxxx! Vxxxx! Byyyy! Vyyyy! Bzzzz! Vzzzz! さあ!どっちだい?」
と詰め寄ってきたので、
「それじゃあ私達イタリア人だって分からないわよ!大体それ、どこの国の言語なのよ!」
とみんなでお腹を抱えて笑った。

私達がたどり着いた結論として、母語話者でない者の多くは、完全に聞き取れない音はいつまでも存在し続ける。それを補う為に、知らない間に様々な術を身に付けているということだ。

正しい型を自分に与え続けると同時に、忍術経典も更新していくのが大事なのである。

by ayusham | 2017-04-02 17:27 | 日記