北大短歌第五号/初谷むい

山田航さんの歌を読んでから、札幌の街が山田航色に染まっていて街歩きが楽しい。
北大短歌第五号の続き。

初谷むいさん。連作30首が愛の歌だ。


水槽が聞こえるベッドが与えられ夜は飼われる側の生活


夜の水槽は確かに、見るものではなくて聞くものかもしれない。「ベッドが与えられ」恋人のアパートか。しかし彼女は恋人ではなく、水槽に飼われている気がする。


愛すって送られてきてアイスかあわたしも行くって返信をする


愛すじゃなくてアイスかあ。メッセージを送った側に何か意図はあるのかどうかはっきりしないが、初谷さんは会いに行く。

ばか高いTシャツ欲しくて、やめたけど、きみとはだかで暮らしたいけど

私が知らなかっただけで、初谷むいさんは既に短歌界のアイドルかもしれない。テレビ界のアイドルは恋愛を禁止だから、初谷さんが短歌界にいる人でよかった。

こわがってカモメ わたしたちたくさんの暴力知ってあなたを見てる

連作の中で一番気になった歌。カモメには自分たちの本当の姿が伝わる気がする。「わたしたちたくさんの暴力知って」。暴力、人には言えないこと、を知らなかったわたしたちにはもう戻ることができない。知るということは失っていくことだ。

酔いながらきみを見つける水中で唾を吐いたらきれいだろうか

初谷さんの歌は視点が突然ひっくり返される心地よさがある。
しかし、きみの立場からすると3句目から視点が自分でははなくて水中に吐かれるであろう唾なので、初谷さんはとらえどころのない、むしろ困った人と言えるだろう。

もっと初谷さんが相手を刺したり刺されたり(比喩です)な歌も読んでみたいので、彼女の他の歌も探してみようと思います。
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by ayusham | 2017-07-14 21:31 | 歌評 | Comments(0)
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