カテゴリ:歌評( 3 )

北大短歌第五号/初谷むい

山田航さんの歌を読んでから、札幌の街が山田航色に染まっていて街歩きが楽しい。
北大短歌第五号の続き。

初谷むいさん。連作30首が愛の歌だ。


水槽が聞こえるベッドが与えられ夜は飼われる側の生活


夜の水槽は確かに、見るものではなくて聞くものかもしれない。「ベッドが与えられ」恋人のアパートか。しかし彼女は恋人ではなく、水槽に飼われている気がする。


愛すって送られてきてアイスかあわたしも行くって返信をする


愛すじゃなくてアイスかあ。メッセージを送った側に何か意図はあるのかどうかはっきりしないが、初谷さんは会いに行く。

ばか高いTシャツ欲しくて、やめたけど、きみとはだかで暮らしたいけど

私が知らなかっただけで、初谷むいさんは既に短歌界のアイドルかもしれない。テレビ界のアイドルは恋愛を禁止だから、初谷さんが短歌界にいる人でよかった。

こわがってカモメ わたしたちたくさんの暴力知ってあなたを見てる

連作の中で一番気になった歌。カモメには自分たちの本当の姿が伝わる気がする。「わたしたちたくさんの暴力知って」。暴力、人には言えないこと、を知らなかったわたしたちにはもう戻ることができない。知るということは失っていくことだ。

酔いながらきみを見つける水中で唾を吐いたらきれいだろうか

初谷さんの歌は視点が突然ひっくり返される心地よさがある。
しかし、きみの立場からすると3句目から視点が自分でははなくて水中に吐かれるであろう唾なので、初谷さんはとらえどころのない、むしろ困った人と言えるだろう。

もっと初谷さんが相手を刺したり刺されたり(比喩です)な歌も読んでみたいので、彼女の他の歌も探してみようと思います。
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by ayusham | 2017-07-14 21:31 | 歌評 | Comments(0)

北大短歌第五号/山田航

文フリに行って北大短歌第五号をゲットして来ました。

ページをぱらぱらとめくると、どうしても最初に目に留まる山田航さんの連作12首から、気になる歌をいくつか。

夕暮れの南5西2 生ゴミのボヤが鎮まるゲリラ豪雨で

私は地名が入っている歌が好きで、自分でもよく読む。札幌の人は何条の東西いくつ、で大体その辺りの雰囲気が分かってしまうんだろうな。南5西2でキスをする、ではなくて生ゴミのボヤが鎮まるところに生活感を感じる。

早苗田に立つ鉄塔を何本も見送りちょっと遠くに行こう

電車だろうか、ドライブだろうか、作者も季節も動的な感じ。

なあそんなとこにタトゥーを入れんなよ太って間延びすんだろどうせ

完璧な二人になんてなれないや死ななきゃだいたいハッピーエンド

晴れどきどき紙飛行機の金曜日もうちょっとがんばれるよ僕ら


ここまで読んで、あれ、タトゥーを入れようとしてる人、完璧な二人、もうちょっと頑張れる僕ら、もしかして相手は作者と同性の仲間だろうかと思った。
体の変な部位にタトゥーを入れようとした時、「なあそんなとこに入れんなよ」と言えること。
ぎりぎりで墜落しない紙飛行機の週末。
火花の徳永と神谷みたいに、生きている限り人生にバッドエンドはないと言える関係を想像してしまった。
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by ayusham | 2017-07-10 20:41 | 歌評 | Comments(2)

塔2017年3月号作品2欄評

特売のゴキブリハウスあきまへん皆さんぞろぞろ出ていかはるよ 小山美保子P67

職場で陰口を言うなと、男性上司から(であろう)の御達しがあったことに続く歌。お喋りしながらでも、いやお喋りしてこそはかどる仕事、お喋りなしでは心身を壊す仕事だって世の中にはある。現場を知らない男性上司こそ、特売のゴキブリハウスなのだ。あきまへん、いかはるよ、は関西の言葉だろうか。あの虫が大嫌いな私にも、関西の言葉は南伊の女の放つ言葉のように清々しく逞しく響く。


ユニクロで買ひしミッキーのTシャツは幾度着ても思ひ出のなく 香西柚茉P81

リシマキアの苗を買って帰宅する頃にはその名前を忘れ、肉じゃがの作り方さえグーグルに問い、ああ東京暮らしのなんて目まぐるしいことか。なんの思い入れもなく購入して、思い出さえも残さないTシャツの一枚もあるのだろう。印象を詠う歌が圧倒的に多い中で、その逆を詠んでいるのが新鮮だ。


海側の旧線という言葉さえ思い出さねば見る夜の海 横田竜巳P150

常磐線再開に伴う代行バス廃止を詠んだ歌。常磐線再開は被災地にとっての悲願であったが、5年半という代行バス期間にも日々の生活はあった。被災地の海岸線を代行バスで走る時、海ではなく、あの津波が来なければ旧線とそこに続くはずだった暮らしを眺める。「歌詠みが歌に残しておかねば」という思いに深く感謝したい。

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by ayusham | 2017-04-18 05:15 | 歌評 | Comments(0)