カテゴリ:本・シネマ( 12 )

ジニのパズル

正月にAmazonのUnlimited(読み放題プラン)を解約した。読み放題は魅力だったけれど、読んでも読んでも心が満たされず私は栄養不足に陥ってしまった。ファストフードを食べ続けたり、好きでもない恋人をとっかえひっかえしたりするような、自分を消耗させる読書もあるのね...

年も改まって、本好きの友人が2016年に読んだ本のベストとしてあげた「ジニのパズル」を読む。

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筆者は1985年生まれの在日韓国人。
(日本では2016年5月にヘイトスピーチ法が成立したこと、同年7月にジニのパズルが発行されたことを心に留めておきたい)

芥川賞候補作である。
あまり推敲されていない、構成も特別に練られていないところが、賞を逃した理由かもしれないが、読者には受賞の有無など関係ない。その勢いこそがこの本の魅力でもあった。
数日かけて大事に読もうと思っていたが、作品の勢いにぐいぐいと引きずられて一晩で読んでしまった。


舞台はオハイオ州の高校、東京の朝鮮学校。合間に北朝鮮に帰国した祖父や家族からの手紙、ホームステイ先の絵本作家ステファニーのエピソードなどが挟まれる。
発達障害のジョン、聾唖のマギー、日本育ち北朝鮮国籍のジニ、とマイノリティの登場人物のパズルピースで少しずつジニのパズルは埋められていく。

ジニはでこぼこした扱いにくい性格であることを自覚している。
朝鮮学校では朝鮮語を一切覚えようとせず、テスト答案を全て「金正日、金日成」と書いて埋めてしまうなど、周囲からの反感をかうことは容易に想像できる。
それでも、いじめを途中で放棄してジニを放っておくユンミ、新しい生活になじめるよう親身になってくれるニナ、上級生のリンチを身を挺してかばってくれる男子クラスメイトのジェファン、朝鮮語の分からないジニの為に日本語で授業を進めてくれる教員達、勉強しないジニの退学を延ばすオハイオ州の校長など、この本はジニの壮絶ないじめ物語ではない。

このぐらいのマイノリティさだったら、私も外国人であり、日常的に生活の中での言葉や待遇の不自由さを経験している。冒頭のジニのように、ヘッドフォンをして雑音を入れず好きな音楽を聞いてやり過ごすことは、そう、きっと誰だってしているのだ。

しかし、ジニがある日、朝鮮学校で革命を起こすことで物語は展開していく。
きっかけは、毎日教室で眺めていた金一家の肖像画である。

自分の傷を言い訳に、よりよって最も大切な人たちを、傷付け、騙し、欺き、追いやり、日の当たらぬ闇の底へー自ら這いつくばって抜け出すしかない奥底まで突き落とした人間。それが私だ。

革命後、ジニは「社会のゴミ」となり、「隔離された、この世界からはすっぽり隠された空間」で、「宇宙のゴミ」である星と会話する。

「星は言った。もう会えないよって。だけど私を落ち着かせるようにして星は続けてこう言ったんだ。明日にはまた別の星が輝いているから大丈夫よ、って。わざわざ私が輝かなくても、別の星は必ず輝いているから、だから大丈夫なんだ、って」


ジニと一緒にパズルピースを埋めていくのが辛くもあったが、この本は想像していた社会派小説でなく、力強い青春小説だった。落ちてくる空を受け止めて、私達は時に輝いたり、ゴミになったりしながら、そしてまた輝く。言い訳を作って、輝くことから逃げるのはやめようと思った。
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by ayusham | 2017-01-06 18:16 | 本・シネマ | Comments(0)

ただいま+「のはらうた」工藤直子

長ひ長ひ夢から醒めてなほ浜の心地がしたり荷物解(ほど)けば


日本から帰ってきて最初の日は、目覚めた時ここはどこだっけと惑う。
ほんの数秒の間に、日本滞在の足跡を辿り、
寂しいような、自分の中に幸せがじわじわ広がってくるような不思議な感覚を覚える。

帰国前の3日間をヘビースモーカーの従兄の家にお世話になったせいか、ヴェネツィアに着いて荷を解いたら洋服が随分と煙草臭くなっていた。井戸水臭も。自分が吸っている時でさえ煙草の匂いは苦手だったんだけど、何故かそれは嫌じゃなかったな。従兄と夫、従兄の子ども達とうちの子ども達がすっかり打ち解けて、大切な人たちが繋がっていくのが嬉しかったです。
しばらく日本に帰っていなかったので過去を懐かしむことが増えていたけど、未来を渡していくという視点ができました。


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娘が学校に楽しく通うのに影響を受けて、息子もおべんきょうを始めました。
今日からは暗唱を。

やわらかく うたいつづけて
かぎりなく ゆれるすがたよ
みおろせば はるかなるうみ
あのうみは ぼくのふるさと

 
「うみよ よびかけのうた」より
導入期は一挙一動が可愛い!私は真面目な指揮者みたいに頑張ります。
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by ayusham | 2012-07-27 05:24 | 本・シネマ

「短歌の作り方、教えてください」俵万智×一青窈

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「短歌の作り方、教えてください」俵万智×一青窈

シンガーソングライターの一青窈さんが短歌を詠み、それを俵さんが添削し、それを受けて一青窈さんが推敲作を提出するという、往復書簡。短歌一年生の一青さんが怖いもの知らずの勢いでガシガシ詠んでいくのを、俵さんが学校の先生みたいに手ほどきしてくれて分かりやすい。
サラダ記念日のイメージから俵さんは前衛的な歌人と思っていたけど、定型を大事にする人なんだな。






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「河野裕子読本」

河野さん語録
・大事なことは言わない。言いたくてたまらないところが歌をだめにしてしまう。読むほうもしんどい。
・たくさん作る。一年に千首ぐらい、歌のできばえは気にせんと、ぱーっと作る。
・感動と表現の出来はたいてい反比例する。思い入れの強さが歌の力を弱める。

ぐさぐさ刺さるー。
河野さんの歌集はイタリアに戻ったら読んでいくつもり。
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by ayusham | 2012-07-12 23:11 | 本・シネマ | Comments(5)

「桃太郎」芥川龍之介

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鬼の立場から書かれた大人版「桃太郎」。平和を愛する鬼たちが静かに暮らす鬼が島を桃太郎とお供の動物達が突然やって来て侵略し殺戮してゆく。しかし、それは人々の間では正義の為の戦いとして伝えられる。情報は都合の良いようにねじ曲げられ、勝者側の立場でしか語られない。
最初と最後の章が桃の木の描写になっていて、「蜘蛛の糸」みたいに視点が変わって現世を突き放すような感じ。平成バージョンでは桃太郎が真っピンクに描かれているのが衝撃的だったので、電子版にはなかったけど載せてみる。

「ももたろう」を読んでもらって安心してスヤスヤ眠っている息子の寝顔を見ながら、こんな世界を手渡したくはないなと考えさせられました。
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by ayusham | 2012-03-17 07:54 | 本・シネマ | Comments(4)

「視覚ミステリー」ウォルターウィック

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100冊の本子ども達と大事に読んでいってます。
自分では絶対購入しなかっただろうなという本も来たのが嬉しい。

この「視覚ミステリー」もそんな一冊。
安野光雅さんの不思議な絵のようなものかと思いきや、この本の写真はどれもカメラの前の「実物」なのです。自分の頭が勝手に作り出した世界を一度捨てて、発想力を持たないといけない。対象低学年〜中学年では勿体なく、ガチガチに固まった大人の頭にこそ必要な本だ。

夕食の後、みんなで本をくるくる回しながら自分達の思い込みに大笑いした。
息子には錯覚が置きていることが分からなくて、でも私達に合わせて笑ってる様子が可笑しくてまたまた、笑ってしまった。(可哀想だったので、寝る前にはだるまちゃんの本を読みました)
娘には「ママこんなに笑ったの初めて見たー」と言われた。

思い込んでたことが、ちょっと視点をずらすと全然違うことだと気づく。
絵本だけでなく、身の回りの出来事でこんなこといっぱいあるのかもしれない。
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by ayusham | 2012-03-08 07:02 | 本・シネマ | Comments(4)

子どもの本100冊

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伊藤忠記念財団さんから子ども文庫へ小学校中学年の本を100冊助成して頂けるとクリスマスメールを受け取り、待ちに待っていた本たちが先週、今週と届いた。関税がかからないようにSAL便で3回に分けて送って頂いた。よろよろと段ボールを抱えて階段を上る、その重さに感激する。

家庭文庫や地域文庫で20年以上活動を続けてきた方々が「子ども達に読んでもらいたい本」「子ども文庫で読み継がれている本」として選んだ本だけあって素晴らしい選書だ。今、子ども達に送ることのできる最高のプレゼントだと思う。

本の力はすごいよ。日本語がかたことの子も、こないだ「ヤカちゃん」の本を読んだら「もっともっと!」と言っていたから。「ながいながいペンギンの話」は私が3年生の時、お昼休みにクラスの男の子が読んでたなあ。サッカー少年で決して読書家というタイプではなかった、本が面白すぎたとしか思えない。

伊藤忠さん、ありがとうございました!
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by ayusham | 2012-02-25 19:08 | 本・シネマ | Comments(4)

「猫の客」平出隆

昭和の終わりって、振り返れば手が届きそうだけど、私達も忘れ始めている時代かもしれない。

可愛がっていた猫は隣家の飼い猫ゆえ、お墓参りすることも叶わない。
夫は妻の為に、引っ越し先を猫が眠る欅の木が見える場所にしようと決める。
窓からの遠い眺めがあれば、ゆっくりとした忘却に身をまかせていけるだろう。

人の心に寄り添うということ。言葉にすると簡単だけど、人の心はみんな違うのよね。
映画のような出来事はなくて、日常を丁寧に書かれた私小説が、心に沁みた。

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さて、今から高校時代の友人を空港まで迎えに行きます。
ストに巻き込まれてへとへとだと思う。
ようこそ〜我が家へ!
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by ayusham | 2012-02-16 21:41 | 本・シネマ | Comments(0)

「新編子どもの図書館」石井桃子

子どもの図書館 石井桃子 読了しました。私設かつら文庫を立ち上げてから7年間の記録。
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石井桃子さんのような方でも、最初の一年は本やおはなしの力だけで文庫をひっぱっていく力がなく子ども会活動のようなことでひっぱっていたと反省していることに私は大変、ほっとした。
ちょっと大人が目を離すと大きい子どもがトランプを始めていたり、突然誰かがやきいもを取り出して食べたり(笑)ここで何の勉強を教えてくれるんですかっ?というママ軍団が出現したり(汗)文庫が文庫としての場所に落ち着きまわっていくまでの、実際のあれこれ全てが参考になった。

文庫は「オートメーション時代に手工業をやっているよりも力ない試み」ではあるけれども、実際子ども達と一緒に本を読んでいくことは、何がよくて何がよくないかをはっきりと私に教えてくれる。子どもは義理で私達に付き合ってくれることは絶対ないし、本やおはなしはテレビと違って子ども達を縛り付ける力はないから。

海外文庫は蔵書の確保、子どもの日本語環境、人員不足と三重苦である。でもそんなことにはめげずに続けてごらんなさい。更に子どもが本が見えてきますよ、と石井桃子さんから強いメッセージを受け取った気がした。もうすぐ文庫開設1周年。
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by ayusham | 2012-01-17 06:12 | 本・シネマ | Comments(6)

「淳之介さんのこと」宮城まり子

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吉行淳之介が好きなので彼のことを知りたくて読み始めたけど、病弱で躁鬱で女癖の悪い淳之介にぶんぶん振り回される筆者にただただ驚く。でも婚姻関係も何の契約もない恋人に、37年間しっかり全てに振り回されきるというのは、並の女にはできることじゃないと思う。普通は優しくてまともな男性のところにふらっと行ってしまうよ。
淳之介のパートナー、トップ女優、そして肢体不自由児施設を立ち上げたひと。読んでゆくうちにバラバラに見えた筆者の側面が、全てリンクしているのが分かった。


さて2011年も残すところあと3日。哀しみは、真夜中に冴え渡る月のようにきらりと光って世界を美しく照らします。

来年は、どんな年になるかしら。高校時代の友達が遊びに来てくれるのが、楽しみです。
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by ayusham | 2011-12-28 23:02 | 本・シネマ | Comments(9)

グッバイ、レーニン!

今日は公園通りの落ち葉に夕日が当たってとても綺麗だった。写真を撮ろうと思ったけど、やめた。ブログのお友達に絵を描いて送る約束をしたのを思い出したから!

映画を観た。
昏睡状態にあったため東ドイツが無くなったことを知らない愛国者の母親のために、母親の周囲を東ベルリン時代のままに演出する息子の物語。
映像も音楽も素晴らしく、キューブリックのパロディもあったりして泣き笑いの名画であった。2003制作の映画だけあって、高揚(ベルリンの壁崩壊)の後の格差と貧困(自由競争社会)がシニカルに描かれている。



2011の今この映画を見て思うことは、テレビ(メディア)はいくらでも偽の事実認識を正当化できるのだということ。そして人は時に真実(実は母親は元夫から外の世界を知らされていた)よりも安心感を与えてくれる虚構を求めるということ。

ラストシーンで息子の嘘がばれてしまったかどうかは、映画を見る人に委ねられてるんだけど、母親がテレビではなくずっと嘘の解説する息子の後ろ姿に微笑んでいるのが印象的だった。彼女にとっては、目の前の息子こそが真実なのだ。
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by ayusham | 2011-10-21 20:38 | 本・シネマ | Comments(0)