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釧路旅行~ジリは続くよどこまでも

世界湿地の日だそうだ。
湿原と言えば、夏に釧路へ行った。
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釧路湿原を散策することが目的だったが、滞在中釧路はずっと濃い霧に覆われていた。
ガイドさんによると、地元ではこの濃霧をジリと言うのだそうだ。
釧路では、年間およそ100日はジリが発生しているという。
湿原を歩いたというよりは、どこまでも続くジリの中をさまよっていた気がする。

居酒屋で隣り合わせた中国人観光客の家族は、全員ユニクロのライトダウンを羽織っていた。長袖は薄手のコットンパーカーだけ持ってきたことを後悔した。
私の知っている日本の夏は釧路にはなかった。

釧路では湿原よりも、駅前大通りの廃墟っぷりに驚いた。
どこの地方都市でも、シャッター街は珍しくはないけれど、あれだけの目抜き通りで見上げる大型ビルディングが一歩足を踏み入れたら剝き出しの地下の穴に落ちるような状態で放置されているのを見ると、ここは本当に日本かと思った。
そのまま桜木紫乃のホテルローヤルの世界です。

イタリアで1年間履いていた息子のスニーカーに穴が開いた。
新しいスニーカーが必要だったが、どれだけ歩いても靴屋はない、靴屋だったかもしれない場所しか見つからない。
やっとのことで結婚式にでも履いて行くような立派な革靴をデパート閉店セールの7割引きで購入した。そのデパートは駅前に残る最後の大型店で、8月いっぱいの閉店を控えて店員も殆どいなかった。ミラノアクセントの六十代と思われる夫婦が、がらんどうの店内を珍しそうに廻って歩いていた。
この夫婦とは、その後一週間の間にトロッコ列車で、幣舞橋の炉端焼きで、バスツアーで何度も顔を合わせることになる。ステレオタイプなイタリア人と違って遠慮がちな北イタリア人だったが、ここまで偶然が重なるとさすがにお互い打ち解け、ツアーでは一緒に行動した。
彼らは既に2度の長期旅行でそれぞれ関西、東京を廻って、今回は一か月かけて北海道を廻ることにしたのだそうだ。主要都市だけでなく利尻や知床へも行ったと言うから、釧路の廃墟など驚きもしなかっただろう。

ツアーガイドをしてくれたのは、地元に27年暮らす、ハキハキとお喋りな女性だった。
夏に札幌に出るのは熱中症が怖いと笑う。
「子どもの頃は『街へ行く』、駅前通りを歩くというのはわくわくする出来事で、デパートでショッピングしたり、映画を見たり、レストランへ行ったりしていたんです。」
「この仕事をしていると、地元の友達はみんな『観光客はみんな何しに釧路に来るの?』って聞いてくるんですよ。」
ジャスコドーナツ化現象で、今や人口は郊外に流れてしまったそうだ。

彼女は他にも、ガイドブックには書いてない地元の人の暮らしを話してくれた。
彼女が案内してくれた一日はとても楽しかった。
進めども進めども前も後ろもジリの中、
「こんな釧路が好きだから、この仕事を続ける。」という彼女の横顔は潔かった。

食べ物は何を食べても美味しかった。
釧路は日本のナポリだ。
ジリの幣舞橋は海風が冷たくて、炉端焼きで暖をとる。
水温が低い場所で育つ牡蠣は、夏でも栄養を取り込みながらゆっくり育つ。
松島の牡蠣と違って甘くて大きい北の牡蠣は、食べるというよりはツルンと私の喉を流れた。
by ayusham | 2017-02-02 16:44 |