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何事も起こらない人生

今年のべファーナ魔女は事前の打ち合わせ通り、色とりどりの甘いキャンディーではなく、靴下の中にぎっしりとナッツや果物を詰めて置いて行ってくれた。外の気温はマイナスが続いているけれど、魔女のお陰で我が家は風邪知らずだ。

最近、娘が人生を嘆いている。
「外見もパッとしないし、毎日家と学校の往復だけだし、特別なことも何も起こらないし、私の人生って平凡すぎる」そうである。
娘はニキビを吹き出しているけれど中学時代の私よりずっと可愛いし(と私は思っているけれど彼女からすると髪と目の色が不満で変えたいらしい)、努力できる環境にあるし(彼女からするといちいち親の期待を感じて自分の本当の気持ちが分からなくなるらしい)、両親は尊重しあっているし(彼女からすると「二人は何についても喧嘩ばっかしてる」のだそうだ)、こんな歴史ある美しい街に住めて(これは彼女も同意!)、もう十分すぎる程恵まれてると思うんだけどなあ。

今週日本では成人式があって、つくば市や那覇市で新成人が大暴れした。彼らに何が足りなかったのか?とも考えられるし、何かが足り過ぎていたのか?とも考えられる。
対照的に東日本大震災の被災地、南三陸町が「荒れない」成人式として取り上げられていた。二十歳の青年の式辞を、べファーナがくれたみかんの皮を剥きながら聞いた。

最近、私の周りでカップルが別居したり、元気そうな友人に大きな病気が分かったりして、私もショックを受けた。勿論、別居は友人たちにとってポジティブな解決策で、病気は早期発見と現代医療で治ることを信じている。被災した街は復興する。

ただ、何事も起こらないこと、普通を継続させていくことって文字通り「有難い」ことなんだなと思う。そんなことをしみじみ夫と話す。
娘に言っても、また何かつまらないことを言っているぐらいにしか思われないだろうけど。

神様は時々誰かの言葉に入りこんで大事なメッセージを運んでくる。
ある日、親友が仕事帰りに。
ある日、広州に住むメル友が深夜のチャットで。
今回のメッセージは娘に言ってるようで、私が私に言っているんだ。
# by ayusham | 2017-01-12 06:32 | 日記

ジニのパズル

正月にAmazonのUnlimited(読み放題プラン)を解約した。読み放題は魅力だったけれど、読んでも読んでも心が満たされず私は栄養不足に陥ってしまった。ファストフードを食べ続けたり、好きでもない恋人をとっかえひっかえしたりするような、自分を消耗させる読書もあるのね...

年も改まって、本好きの友人が2016年に読んだ本のベストとしてあげた「ジニのパズル」を読む。

ジニのパズル_f0215198_19325454.jpg


筆者は1985年生まれの在日韓国人。
(日本では2016年5月にヘイトスピーチ法が成立したこと、同年7月にジニのパズルが発行されたことを心に留めておきたい)

芥川賞候補作である。
あまり推敲されていない、構成も特別に練られていないところが、賞を逃した理由かもしれないが、読者には受賞の有無など関係ない。その勢いこそがこの本の魅力でもあった。
数日かけて大事に読もうと思っていたが、作品の勢いにぐいぐいと引きずられて一晩で読んでしまった。


舞台はオハイオ州の高校、東京の朝鮮学校。合間に北朝鮮に帰国した祖父や家族からの手紙、ホームステイ先の絵本作家ステファニーのエピソードなどが挟まれる。
発達障害のジョン、聾唖のマギー、日本育ち北朝鮮国籍のジニ、とマイノリティの登場人物のパズルピースで少しずつジニのパズルは埋められていく。

ジニはでこぼこした扱いにくい性格であることを自覚している。
朝鮮学校では朝鮮語を一切覚えようとせず、テスト答案を全て「金正日、金日成」と書いて埋めてしまうなど、周囲からの反感をかうことは容易に想像できる。
それでも、いじめを途中で放棄してジニを放っておくユンミ、新しい生活になじめるよう親身になってくれるニナ、上級生のリンチを身を挺してかばってくれる男子クラスメイトのジェファン、朝鮮語の分からないジニの為に日本語で授業を進めてくれる教員達、勉強しないジニの退学を延ばすオハイオ州の校長など、この本はジニの壮絶ないじめ物語ではない。

このぐらいのマイノリティさだったら、私も外国人であり、日常的に生活の中での言葉や待遇の不自由さを経験している。冒頭のジニのように、ヘッドフォンをして雑音を入れず好きな音楽を聞いてやり過ごすことは、そう、きっと誰だってしているのだ。

しかし、ジニがある日、朝鮮学校で革命を起こすことで物語は展開していく。
きっかけは、毎日教室で眺めていた金一家の肖像画である。

自分の傷を言い訳に、よりよって最も大切な人たちを、傷付け、騙し、欺き、追いやり、日の当たらぬ闇の底へー自ら這いつくばって抜け出すしかない奥底まで突き落とした人間。それが私だ。

革命後、ジニは「社会のゴミ」となり、「隔離された、この世界からはすっぽり隠された空間」で、「宇宙のゴミ」である星と会話する。

「星は言った。もう会えないよって。だけど私を落ち着かせるようにして星は続けてこう言ったんだ。明日にはまた別の星が輝いているから大丈夫よ、って。わざわざ私が輝かなくても、別の星は必ず輝いているから、だから大丈夫なんだ、って」


ジニと一緒にパズルピースを埋めていくのが辛くもあったが、この本は想像していた社会派小説でなく、力強い青春小説だった。落ちてくる空を受け止めて、私達は時に輝いたり、ゴミになったりしながら、そしてまた輝く。言い訳を作って、輝くことから逃げるのはやめようと思った。
# by ayusham | 2017-01-06 18:16 | 本・シネマ

就職活動


面接の質問を書き出してみる何もしないでいるよりはまし

惑星の逆行が明ける火曜日の事務局からの採用通知

別姓婚十六年目のありがたみ君も職場にいるということ

橋を越え次の授業へヴェネツィアは島全体をキャンパスにして

宮殿の中は省エネ奨励でシャンデリアにはLDライト

ローマ字の自分と漢字の自分いて近頃うまく両立できる

アクセント記号のついたキーボード在伊十年標準になりて



# by ayusham | 2016-02-18 03:18 | 短歌

永遠の都

tomomatoさんがヴェネツィアにいらしています。
なんと同じ時期にローマに滞在していたことが判明!どこかですれ違っていたかもね...

tomomatoさんのカメラの調子が悪かったようなので、代わりに私が永遠の都ローマの写真をupしておきましょう。

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週末の予報的中雷鳴が響けり夜のトラステヴェレに
石畳のどこを抜けても泉あり古代ローマは神多き国
物乞いの女の嘘と霧雨と全て飲み込む古代遺跡は
浅黒き肌の傘売りよけながら旅人は探す枯れたトレヴィを
雨上がり濡れた花びら異教徒の我にも鐘の音は降り注ぐ

# by ayusham | 2015-04-16 16:57 | 短歌

違法労働

中国語あふれるローマ広場にて空港バスの出発を待つ

時刻表も覚えてしまいぬ深夜なら空港までは二十三分

秋からの違法労働(ラヴォーロネーロ)数重ね日々携帯に新しき名

四日間の母親(わたし)の不在報酬の高さでやはり断りきれず

子育てと仕事の脳は違っていてそれでも二つは助け合っている

平凡な母でありたし毎日を叱って抱いて一緒に眠って

何事もなき一日の夕暮れに子と見つけたり宵の明星

# by ayusham | 2015-03-17 15:44 | 短歌